筑後平野の北部にある大刀洗町で、減農薬・有機肥料にこだわったイチゴの栽培、加工、イチゴ狩り農園の運営などを行っています。就農した2012年まではまったく農業に関係ない仕事をしていたんですが、イチゴ農家だった私の両親が高齢になったこともあって、夫が継いでくれましてね。夫が他界した今では、私が「農園の母ちゃん」として切り盛りをしながら、福岡のブランドイチゴであるあまおうなど5～6品種を栽培しています。また、加工品としては、素材そのままの風味や甘味を活かした無添加・無着色のドライフルーツやジャムなどを製造しています。

父が試行錯誤を繰り返しながら、有機肥料を減らしつつあった時のことです。チャドクガの幼虫が大量発生して茶葉を荒らしてしまいましてね。でも不思議なことに、虫が付いたのは茶樹の横枝部分だけで、幹部分は無事だったんです。理由を探ってみると、私どもの茶樹と、他の茶樹との違いが見えてきました。通常、茶樹は幹から伸びた横枝が土に潜って浅い根を張ります。その浅い根は地表の肥料分を吸収して成長するんですが、私どもの茶畑では肥料を減らしつつあったので、浅い根が肥料分を吸収できなかったんです。

もともと「食べ物を扱うのなら安心して口にできるものを手掛けたい」という考えを持っていたので、就農時から減農薬・有機肥料でいこうと決めていました。でも、なるべく農薬を使わないということは、病害虫との闘いが一層大変になることを意味します。例えば、イチゴはハダニという害虫に悩まされることが多いのですが、それについてはハダニを食べてくれる天敵のダニを放飼するという対策で乗り切りました。こういった取り組みを続けることで、農薬の散布回数がぐっと減りましてね。すると、イチゴの株自体も元気になっていくという好循環が生まれました。

そうですね。農薬が増えるとイチゴ自体の免疫力が低下して株が弱り、より多くの農薬や肥料が必要になるという悪循環に陥ります。逆に、自然に近い環境でつくった方がイチゴたちも元気に、甘くおいしくなると分かったことは大きな発見でした。2019年にイチゴ狩り農園を始めてからは、こういった安心できるイチゴづくりに一層配慮するようになりましてね。農園にいらっしゃるお客様は株から直接イチゴを摘んでお召し上がりになりますから、おいしそうに食べている皆さんの姿を見るたびに、減農薬・有機肥料での栽培を続けていてよかったと思うんです。

こだわりもなにも、当農園のイチゴは元気で糖度が非常に高いので、添加物を加える必要がないんです。ドライフルーツの原料はイチゴだけ、ジャムの原料はイチゴに加えて少量のグラニュー糖とレモン汁だけなんですが、本当に甘くておいしいんですよ。ジャムはパンやクラッカーに付けて食べるのが定番ですが、まずはそのまま味わってみてください。すると、大手メーカーの量産品との違いがすぐに分かるでしょう。また、あまおうだけを使ったものと、多品種イチゴをブレンドしたものとをご用意しており、それぞれ個性が異なるので、食べ比べてみるのもお薦めです。

イチゴに限らず、農産物は自然が育むものですから、より自然に近い環境を維持することがおいしさに直結すると思っています。そういった意味で言うと、私にはまだまだチャレンジしてみたいことがあって。それは、無農薬栽培です。経費や労働などとの兼ね合いもあるので、まだまだ計画の域を出ていませんが、より安全でおいしいイチゴをお客様に提供するためにも模索し続けていきたいです。さらに、現在は他工場に製造をお願いしている加工品についても、自前でできるようにして完全な6次産業化を可能にしたいと考えています。当農園の未来にご期待ください。